皆さん、『キャリア・アンカー』ってご存じですか?
- 自分が大事にしている価値観は何なんだろうか
- 働く動機がよくわからなくなってきた
- どんな働き方が向いているのだろうか
働くことに対する自分の仕事観や、どのように働いていけば満足度が高まるのか、抽象的で、ふと悩むこともあるのではと思います。
キャリア・アンカーは自分の中での仕事に対する価値観であり、しっかりとイメージを持つことで、これからのキャリアの軸になるものとされています。
ちなみにアンカーとは船を安定させる錨(いかり)の意味で、個人の動かぬキャリアの軸をいう意味で名づけられました。
今回は、そのキャリア・アンカーを提唱した、エドガー・H・シャインのキャリア理論を包括的に紹介しながら、働くうえでの動機・能力・価値観を考えてみたいと思います。
組織心理学を開拓し、キャリア・アンカーで有名なエドガー・H・シャイン
エドガー・H・シャインは、アメリカの心理学者でマサチューセッツ工科大学の教授です。企業という組織と、個人の考えをどのように調和し形成させていくことができるのかといった組織心理学という分野を開拓しました。
キャリア・アンカーが有名ですが、理論の原点は「キャリア開発の視点の本質は、時の経過に伴う個人と組織の相互作用に焦点があることにある」としています。
では理論の概要を見ていきましょう。
外的キャリアと内的キャリア
シャインはキャリアの客観的な側面を「外的キャリア」、主観的な側面を「内的キャリア」としています。
外的キャリア
仕事の実績、内容、地位、報酬等、外から見えるもの
内的キャリア
仕事に対する動機や価値観など内側にあり、外から見えないもの
このように、キャリアを客観的な側面と内面的な側面に分けて考えています。
2つのキャリアに分けたうえで、外的キャリアをキャリア・コーンという図に表して説明しています。
外的キャリアを示すキャリア・コーン
キャリア・コーンとは組織の構造を円錐(えんすい)形で表現し、3つの方向性でキャリアは形成されていくとしたものです。

①垂直方向は職位を示して、上昇することで係長、課長、部長などの役職に就くことを意味します。
②水平方向は専門性を示し、部署異動によって形成されるキャリアを意味します。
③円錐の中心へ向かう方向は、特定の分野でのエキスパートや、中心人物となっていくキャリアを意味しています。
このキャリア・コーンの示す3つの方向がかけ合わさってキャリアが形成されていくとし、組織内での外的キャリアを図化しています。
内的な発達過程を示すキャリア・サイクル
外的キャリアをキャリア・コーンで示す一方で、内的な発達段階をキャリア・サイクルとして提唱しています。
【キャリア・サイクル】(1978シャイン)
段階 | 説明 |
---|---|
1.成長・空想・探求 (0~21歳) | 現実的な職業選択のための基準をつくる。教育・訓練を受けるなど。 |
2.仕事の世界へのエントリー (16~25歳) | 初めての仕事に就く。実行可能な心理的契約を結ぶ。組織ないし職業のメンバーになる。 |
3.基本訓練 (16~25歳) | 現実を知ってショックに対処する。できるだけ早く戦力になる。仕事の日課に適応する。正規のメンバーとして認められる。 |
4.キャリア初期の正社員 (17~30歳) | 責任を引き受け、職務を首尾よくこなす。特殊技術や専門知識を開発する。独立を求める自己と従属させる会社の欲求を調和させる。残るか去るか。 |
5.正社員資格、キャリア中期 (25歳以降) | 専門を選ぶ。あるいはマネージャーになる方向に向かう。明確なアイデンティティを確立する。など |
6.キャリア中期の危機 (35~45歳) | キャリアを変えるかどうかを決める。夢・希望対現実生活全体におけるキャリアの重要性を決める。など |
7. A)非指導者役にあるキャリア後期 | 助言者になる。技術を深める。マネジメントになると決めたら、より広範な責任を引き受ける。現状維持で仕事以外に成長を求めるなら、影響力ややりがいの減少を受け入れる。 |
B)指導者役にあるキャリア後期 | 組織の長期的繁栄に貢献する。広く影響を及ぼす。部下を選抜し開発する。社会における組織の評価を行う。など |
8.衰え及び離脱 | 権力、責任の低下を受け入れる。新しい役割を受け入れ、開発する。仕事が主でない生活を送れるようになる。 |
9.引退 | ライフスタイル、役割、生活水準の劇的な変化に適応する。蓄積した自分の経験と知恵を他者のために使う。 |
キャリア・サイクルとして9段階に発達段階を示しています。
約40年前のアメリカをベースとした研究ですので、年齢幅などは、現在の日本とは異なる部分もあるとは思いますが、経験を積んでいく過程での 内面的な変化などは共通する部分ではないかと思います。
また、7段階目の非指導者(専門家)か、指導者(管理者)か分けているところは、キャリア・アンカーの概念にもあるように他の発達理論と異なる特徴とされています。
ではキャリア・アンカーを見ていきましょう。
キャリア・アンカーとは
キャリア・アンカーは仕事を通じ経験としていく中での、自己イメージです。
次の3つの要素が複合的に組み合わさって確立されていきます。
- 自覚された才能と能力(仕事での成功体験などに基づく)
- 自覚された動機と欲求(経験を自己診断、他者のフィードバック)
- 自覚された態度と価値(自己と組織の環境等との関係)
働いていく中で確立される内的キャリアであり、自分のキャリアの軸を見つけることで、今後の歩みの参考にすることができます。
そのキャリア・アンカーは、20年にわたる調査の結果、最終的に8つのアンカーに整理されています。
【キャリア・アンカーの種類】(1990シャイン)
専門・職能的コンピタンス
自分が得意としている専門分野や職能分野での能力発揮に満足感を覚える。
全般管理コンピタンス
組織内の責任ある地位に立ち、自分の努力によって組織の成功に貢献し、その結果、高い収入を得ることに喜びを感じる。
自律・独立
組織の規則や手順、規範に束縛されない。自分のやり方、自分のペース、自分の納得する仕事の標準を優先する。
保障・安定
安全で確実、将来を予測でき、ゆったりとした気持ちで仕事をしたいという欲求を優先する。
起業家的創造性
自身で新しい組織、製品、サービスを生み出して新しい事業を起こし、存続させ、経済的に成功させたいと強く意識する。
奉仕・社会貢献
なんらかの形で世の中をよくしたいという欲求に基づいてキャリアを選択する。
純粋な挑戦
不可能と思えるような障害を克服する、解決不能と思われてきた問題を解決する、極めて手ごわい相手に勝つことが成功。
生活様式
個人、家族、キャリアのニーズをうまく統合したい。
以上の8つがキャリア・アンカーです。
改めて、この8つを見ながら、自分の価値観、欲求は何か、キャリア・アンカーを探ってみてはいかがでしょうか。
シャインは基本的には1つのアンカーが確立されていくとしていますが、実際は2つや3つという場合もあると思いますし、変化していくこともあると思います。
ちなみに私の場合は、「専門・職能的コンピタンス」「自律・独立」「奉仕・社会貢献」の3つあたりが大事だと感じています。
【合わせて読もう】
キャリア・サバイバルによりアンカーを活かす
シャインの理論の原点 「キャリア開発の視点の本質は、時の経過に伴う個人と組織の相互作用に焦点があることにある」 としています。
個人のキャリア・アンカーが確立しても、個人のやりたいように働けるわけではありません。組織で働くうえでは組織から求められる職務や役割などのニーズを理解し、個人と組織が調和することが大切だとしています。
この考え方から「キャリア・サバイバル」という、個人と組織の調和を図るためのツールを開発しています。サバイバルというのは個人のアンカーと組織のニーズを調和させ生き残るという意味です。
キャリア・サバイバルは次の6ステップで構成されています。
ステップ①現在の職務と役割を理解する
ステップ②環境の変化を識別する
ステップ③環境の変化が利害関係者の期待に与える影響を評価する
ステップ④職務と役割に対する影響を確認する
ステップ⑤職務要件を見直す
ステップ⑥プランニング・エクササイズの輪を広げる
以上の6ステップです。
このステップはなかなか苦労のいる作業ですが、研修や上司との面談を通じて個人と組織のニーズをすり合わせていくことが大事だと思います。
どのように働きたいかというのを実現するにもある程度の妥協は必要ですし、どうしても譲れなければ転職という道も見えてきます。
いずれにしてもキャリアの選択は冷静に正しい選択ができるように、様々な考え方や理論を知っておいて損はないと思います。
最後に
キャリア・アンカーに代表される、エドガー・H・シャインのキャリア理論を包括的に紹介しました。
自己理解を深め、自分の仕事に対する価値観や欲求を知る、そして組織との調和を図ることができれば、人生そのものの満足度が向上するのではないかと考えています。
キャリア理論は様々です。それだけに個々人のキャリアも様々で正解は自分の中にしかありません。
今回紹介したキャリア・アンカーも数多くある理論の一つとして知って頂き、参考になれば幸いです。
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