プロティアン・キャリアとは?適応力を高めるダグラス・T・ホールのキャリア理論(1940‐)

キャリア理論

キャリアには多くの理論が存在します。時代背景や文化などで異なってきますし、どんなキャリアが正解なのかということも個人によって異なってきます。

そういう意味では多種多様な理論があって良いと思いますが、変化の激しい今の日本にどんな理論がマッチしやすいかと考えた時に、参考となるダグラス・T・ホールの理論を紹介します。

理論の概要

理論の提唱者であるダグラス・T・ホールはボストン大学マネジメント・スクールで組織行動論の教授を務めており、組織心理学をベースとしたキャリア理論となっている。

個人のキャリア形成を組織がどのように支援できるのかといった組織内キャリアマネジメントを考えるうえで参考になるものです。

ホールのキャリアの定義

ホールの考えるキャリアの定義は「キャリアとは生涯にわたる期間において、仕事に関する諸経験や諸活動と結びついており、個人的に知覚された一連の態度や行動である」としている。

定義の前提となる考え方

①組織階層的に上方へ移行することがキャリアという視点はとらない。

②キャリアに成功や失敗があるとしても、それはキャリアを歩む本人によって評価される。

③キャリアには主観的側面(個人の成長に伴って変化する価値観、態度、動機)と客観的側面(特定の仕事のオファーを受け入れたり拒否したりというような観察可能な選択行動)があり、両方を考慮する必要がある。

④キャリアとはプロセス(仕事に関連した経験の連続)である。

この4点を前提とした考え方としています。これは終身雇用や年功的序列を中心とした社会から、個人を中心とした社会に変化しているということを表しています。

この社会環境の変化により、キャリアは組織によって形成されるのではなく、個人によって形成されるものであり、変化に適応しながら心理的成功をめざす「プロティアン・キャリア」という考え方を提唱しました。

プロティアン・キャリアとは?

「プロティアン」とは変幻自在にどんなものにも変身できるギリシャ神話の神「プロテウス」を語源としているそうです。

変わり続ける環境に対して変幻自在に自身のキャリアを適応させるというところから「プロティアン・キャリア」と名付けられています。

では従来のキャリアの考え方とどのように異なるのでしょうか。従来型のキャリアとプロティアン・キャリアの違いをまとめたものになります。

【従来型キャリアとプロティアン・キャリアの比較】

従来型キャリア プロティアン・キャリア
キャリアの主体 組織 個人
価値観 昇進、権力 自由、成長
変化の程度 低い 高い
成果 地位、給料 心理的成功
姿勢 組織内コミットメント 仕事の満足感
アイデンティティ (自己) 組織からの尊敬 自分は何をすべきか 自分を尊敬できるか 自分は何をしたいのか
アダプタビリティ (適応) 組織に関連する柔軟性 組織内での生き残り 仕事に関連する柔軟性 コンピテンシー(市場価値)

成果として何を目指すかというところでは、組織内における地位や給料ではなく、個人の心理的成功としています。

そして、この心理的成功のためには、「アイデンティティ(自己)」「アダプタビリティ(適応)」の2つが重要だとしています。

では 「アイデンティティ(自己)」と「アダプタビリティ(適応)」 について見ていきましょう。

アイデンティティとは何か?

アイデンティティとは「自分が何者なのか」「自己同一性」という意味ですが、具体的には、自分の興味、価値観、能力などに対する自分自身の理解度であり、過去・現在・未来に対して自己概念の統合の度合いとしています。

変化が激しい社会において、自らのキャリアを合わせていくことが求まられますが、ただ変化に合わせるだけでは流されてしまい心理的な成功を得ることは難しくなります。

そのためにしっかりとしたぶれない軸が必要であり、一貫した肯定的なアイデンティティである自己像が必要であるとしています。また、ホールは肯定的なアイデンティティを持っていると目標への意欲が高まるとも言っています。

このあたりの解釈が難しいですが、自分自身がやりたいと思うことを、自尊心を持って行動するということでしょうか。自分の考えていること、行動を一致させるという風に理解するとイメージしやすいのではと思います。

では次にアダプタビリティとは何かを見ていきましょう。

アダプタビリティとは何か?

アダプタビリティとは「適応性」「順応性」という意味ですが、ホールは次の4点を意識的に、かつ継続的に行うことやその傾向であると定義しています。

反応学習・・・変化する外部環境からサインを読み取り、その要求に反応したり逆に環境に影響を及ぼしたりするために、役割行動を発展させたり最新のものにしたりする。

アイデンティティの探索・・・アイデンティティの維持や修正を行うために、自己に関する完全かつ正確な情報を得ようを試みる。

統合力・・・自分の行動とアイデンティティの一致を保ち、環境の変化にタイムリーかつ的確に応える。

適応モチベーション・・・上記3つの適応を行う能力(適応コンピテンス)発展させたり、状況に対して応用させようとする意思。

以上の4点の行動によりアイデンティティ、つまり適応力が高めることが出来るとしています。

また①から④の関係をこのように表しています。

アダプタビリティ=適応コンピテンス(①~③)×適応モチベーション(④)

これは適応行動を行っていても、それを活かそうとする意思が無ければ意味が無いことになるということです。また逆も同じで、双方を高めていくことが大事だとしています。

まとめ

「プロティアン・キャリア」を提唱したダグラス・T・ホールのキャリア理論についてまとめてみました。

初めて 「プロティアン」 と聞いたときは意味の分からない横文字に拒否反応していましたが、環境変化に適応しながら心理的成功をめざす理論の中身は、現在の日本に必要な考え方ではないかと思っています。

そのためにアイデンティティ(自己)として自己理解を深めて、そして自分を認めて一貫した行動をとるということ。

そしてアダプタビリティ(適応)を高めるため変化をキャッチしながら変化に適応していくこと、またその意思を持った行動をするということ。

これらを日常生活の中で意識しながら過ごしていくことが、自分なりのキャリアに繋がっていくのかなと考えています。

参考になれば幸いです。

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